いにしえへの旅~初めての古典
古典は難しいです。
高校の古文の時間は難儀しました。
でも古典には実は
魅力あふれる世界が
しっかりと存在しているのです。
これを味わわないのはもったいない。
子どもたちにもぜひ薦めたい。
角川ソフィア文庫の
「ビギナーズ・クラシックス
日本の古典」なら
入門書としてぴったりです。
その1:
「古事記」(角川書店編)
「宇宙の中心の浮遊がおさまり、
凝固してきたものの、
まだ生命の兆しや物体の形が
はっきりとは見えません。
何と名づけたらよいのか、
だれにもわかりませんでした。」
なにか怪しげな宗教書を
読んでいるような
錯覚を覚えるはずです。
何を隠そう、日本最古の書物、
古事記の序文なのです。
その2:
「竹取物語」(角川書店編)
光る竹から誕生したかぐや姫。
あっという間に絶世の美女に成長する。
姫ほしさに群がる求婚者。
その最終選考に残った五人。
結婚条件として
無理難題を課されて全員破滅。
最後は時の帝まで参戦するも
あえなく敗退。
ついに姫は月へと帰還する。
幼稚園児の頃、
紙芝居で教えてもらった筋書きと
あらかた同じなのですが、
受ける印象は全く違います。
その3:
「枕草子」(清少納言/角川書店編)
そうです。これは清少納言が
平安時代に綴ったブログなのです。
それも相当インテリジェンス。
品を落とすことなく
自分の感情を素直に綴り、
短文や体言止めで
シンプルな文章構成にし、
自身が味わった美しい情景を
的確に読み手の前に提示する。
人気の出るブログの条件を
完璧に押さえてあるのです。
その4:
「源氏物語」(角川書店編)
この源氏物語の世界は、
長大かつ壮大な歴史絵巻ですが、
描かれているのは
「もつれにもつれた男女関係」と
「貴族の権力争い」です。
第一帖「桐壺」から
第五十四帖「夢浮橋」まで
描かれること七十数年。
そのほとんどが男女の色恋ものです。
そして背景にはしっかりと
平安時代の
壮絶な権力争いが存在しています。
その5:
「とりかへばや物語」(鈴木裕子編)
権大納言の息子は内気でおしとやか、
娘は活発で外交的。
貴族としての生活が
難しいと判断した父親は、
二人の性別を取り替えて
成人式を挙げさせる。
娘は男性として女性と結婚、
息子は女官として女性の東宮へ出仕、
ところが…。
その6:
「今昔物語集」(角川書店編)
出世の機会を得た侍は、
旅支度の金策のため、最愛の妻を捨て、
裕福な女に乗り換える。
新しい妻と任国へ下ったものの、
前妻が忘れられない侍は、
帰京とともに前妻のもとへ急ぐ。
家の中には妻が一人。
前妻は恨むようすもなく、
秋の夜を二人は仲むつまじく過ごす。
朝、侍が目覚めると、
隣に寝ていたのは…。
「かれがれと干れて、
骨と皮ばかりなる死人なりけり」
その7:
「平家物語」(角川書店編)
中国などでは、歴史書は
勝者が自身の正当性を訴えるために
敗者を徹底的に悪賊扱いするのですが、
「平家物語」はそうではありません。
敗れた者にこそ
限りない慈愛のまなざしが
注がれているのです。
八百年の時を超えて語り継がれる理由は
そこにあるのだと思うのです。
その8:
「徒然草」(角川書店編)
高校生の頃、古文の時間が退屈でした。
私は理系クラスでしたが、
決して文系教科をおろそかに
していたつもりはありません。
文法や問題の解き方などが中心で、
古典作品を味わうことや
作品に込められた精神などに
ふれることがほとんどなかった
からではないかと思います。
そう思うのは、本書を読んで
「徒然草ってこんなにいいことが
書かれていたのか」と
素直に感じることができたからです。
現代にも通じる
ありがたい言葉が満載です。
その9:
「おくのほそ道」(松尾芭蕉/角川書店編)
高校生の頃、松尾芭蕉=暇人という
不届きなイメージを持っていました。
浅はかでした。
「おくのほそ道」は、
1689年に江戸を発ち、
奥州・北陸道を巡った、
俳諧を含めた旅行記なのです。
約150日間の日数で全行程約2400km、
単純計算で1日16km。
当然全て徒歩ですから、
簡単なものではなかったはずです。
私たちは悲しいことに、
私たちのはるか祖先の書き残した
「古典」について、
個人が直接その原文に接し、
そこに込められている
物語や歴史的事実、
先人の思いについて理解することは
ほぼ不可能の状態に
なってしまいました。
だからこそ、
この角川ソフィア文庫版
ビギナーズ・クラシックスの
存在意義があるのです。
大人のみなさんもぜひお試しください。
古典は面白いですゾ!
(2020.5.15)